Vol. 06

PUKAPUKA(原田酒造)

漂うように、ただ酔う。

「来週から、焼酎造りの修行に行かないか?」

突然会社の上司にそう言われたら、あなたならどうしますか? 「いやいや、それはできません」「さすがに急過ぎる……」と、普通の人なら断ってしまうところ。

けれど「楽しそうだったから」という理由で、その提案を受け入れ、それまで勤めていた仕事を離れ、翌週には焼酎蔵で修行を始めた人がいました。それが、今回お話をお聞きした、沖永良部島にある原田酒造の杜氏・市部真吾(いちべしんご)さんです。

市部さんは、そうした経緯で全くの未経験から焼酎造りの杜氏になりました。今回お届けする「PUKAPUKA」は、そんな彼が造る黒糖焼酎。「これが天職かもしれない」と話す市部さんの、未経験からの焼酎造りには一体どんなエピソードがあったのでしょうか?

未経験から焼酎造りの杜氏に。転機となった上司の一言

市部さんが沖永良部島に家族で移住してきたのは2013年のこと。それまで10年以上過ごした東京を離れることを決め、移住先を検討していたところ、友人の結婚式で出会ったとある参加者にいきなり「島に若い社員がいなくて困っているから、うちの会社で働きませんか」と誘われます。

その頃市部さんは、特に希望の移住先がなかったこともあり、その誘いを受け、行ったこともない沖永良部島に家族で移住することを決めます。移住後は、通信インフラ業の会社に勤めることになりました。

そんなある日、市部さんに転機が訪れます。

「その会社に勤めてからは、よく電信柱に登って作業していたのですが、あるときふと下を見るとずーっと僕を待ってる人がいたんですね。『あの人、ずっと待ってるなぁ…、なんだろう?』と思いながら数十分後、降りて話すと、島にある原田酒造の社長であることが分かり、『一週間後、(鹿児島県)霧島市にある中村酒造場に杜氏の修行にいかないか』と急に言われたんです(笑)」(市部さん)

普通なら「そんなすぐには無理です」と拒否したいところですが、そこが市部さんが他の人とはちょっと違うところ。ただ「焼酎造りがおもしろそうだったから」という理由で、なんと、焼酎造り未経験にもかかわらずこの提案を受け入れ、翌週から単身県本土での焼酎の修行をはじめることになります。

修行先は、「なかむら」や「玉露」などの芋焼酎で古くから知られる、鹿児島県霧島市の中村酒造場。市部さんはそこで4ヶ月間修行し、焼酎造りの基礎を学びました。

当時を振り返り、「普通、蔵の外の人間に簡単に仕事を任せられるものではありません。僕にいろんな工程を任せてくれたのは、中村酒造場の懐の深さなんだと思います」と語ります。その後、沖永良部島に戻った市部さんは、予定通り原田酒造に入り、黒糖焼酎の製造をはじめることになります。

「手伝わさせてください!」と他の蔵に入り、ノウハウを学んだ

しかしながら、みっちり修行してきたとはいえ、期間は4ヶ月間。焼酎造りのいろはがそうそう簡単に身につくものではありません。また、修行してきた芋焼酎造りと黒糖焼酎造りでは、そもそも原料が違うため、予想外に苦労したことも多かったんだとか。

「仕込みに使う原料が、芋から黒糖に変わるだけで全然勝手が違いましたね。焼酎のもとになる菌(麹菌)があるのですが、その性質がまったく違うんです。あと、黒糖焼酎は黒糖を使うので、床や機材がベットベトになるんです(笑)。それは想像してなかったので最初はすごく驚きました」(市部さん)

 

タンクに入った黒糖焼酎の原料となる黒糖のブロック。この袋を剥がし、中の黒糖を取り出す作業は、ベタつきとの戦いで、ものすごく大変。

造りの工程でどうしても分からないことが出てきたときは、修行していた中村酒造場の工場長に電話で相談したこともあったといいます。とはいえ、焼酎造りの師匠と言っても、原料がそもそも違う黒糖焼酎のことは分からないことも多く、そんなときには同じ島内の焼酎蔵の方に直接話を聞きに行っていたんだそう。

「島の人の特性なのか、あまり「競合」「ライバル」という意識はなく、蔵どうしで結構横のつながりがあるんです。なのでとにかく「手伝わさせてください!」とお願いして作業を手伝い、そのなかで質問をしたり、観察することによって他の蔵の焼酎造りを学ぶことができました。やはりどの蔵も独自のノウハウがあって、その度に発見があるんですよね」(市部さん)

他にも、蔵にあった過去の資料を読み漁ったりして、焼酎造りの基礎理論を学んだという市部さん。学びながら、「あれって、こういうことか……!」と点と点が線になる瞬間に出会えたり、日々の小さな発見がある焼酎造りにのめり込んでいきました。

海に浮かんでるヒトデを見て閃いた「PUKAPUKA」

島の暮らしにも、黒糖焼酎造りにも馴れてきた頃、市部さんは初めて、自らの企画で新たな黒糖焼酎を造ることになります。まず目指したコンセプトは、「島の若い世代が飲む焼酎」。

「ここ数年、どこに行っても言われるのが『若い世代が焼酎手に取らなくなった』ということです。仕方がない流れだとは思うのですが、蔵や業界の未来を考えると、やっぱり若い世代に黒糖焼酎の魅力を知ってもらって、飲んでもらうことが大事だと思ったんです」(市部さん)

若い世代に楽しんでもらうために、味わいもこれまでの黒糖焼酎のまったりとした甘みではなく、繊細で清涼感のある味の方向性を選びました。そしてコンセプト、味と決まれば、残るは「名前」。島で造る焼酎なので、せっかくならどこか「南の島っぽい」名前にすることに。

そんななか、休日、いつものように子どもと近所の海に潜って遊んでいると、1匹のヒトデが水面に浮いているのを見つけた市部さん。そこで、ハッとしました。

「ぷかぷかと優雅に浮かぶヒトデを見て、すごくいいなと思ったんです。また、海の中を漂っている様子と、『ただ酔う』という意味的にも掛け合わせられるので、それを見た時に焼酎の名前は『PUKAPUKA』だ!と思ったんです。完全に直感ですね」(市部さん)

 

黒糖焼酎「PUKAPUKA」の生い立ちを語る市部さん。今、原田酒造は仕込みの最盛期で、この時期は毎日3〜4時間程度しか寝る暇がないほど忙しいんだそう。

そうして生まれたのが、黒糖焼酎「PUKAPUKA」です。ラベルの中央部にあるのは、まさに同じ状況で撮ったヒトデの写真。どこか「島暮らし」を思わせる、ゆったりとした余白の多さが印象的なデザインのラベルです。飲んでみると、本当にスッキリとしていて、飲みやすい! このスッと透き通った味が、いまの若い世代に受け入れられる味なんだといいます。

2016年11月の発売後には、お披露目会を兼ねて、海岸で音楽や映画を楽しみながら「PUKAPUKA」を楽しむイベント「プカプカナイト」を開催したり、精力的にPR活動を行ってきた市部さん。そんななか、市部さんも意外だったおもしろい反響もあるんだとか。

「発売後にはいろんな方から反響をいただいて、この『PUKAPUKA』を紅茶で割って飲むと美味しい、という予想外な発見もありました。実際、すごく美味しいんですよ。個人的には、牛乳で割って飲む『牛乳割り』がめちゃくちゃ好きなんですけどね(笑)。」(市部さん)

「どんな仕事だってかっこよくなれるはずから、正直なんだっていいんです」と、海に漂うように、気分の向くまま、心の赴くままの暮らしを楽しんでいる市部さん。この焼酎「PUKAPUKA」は、そんな市部さんだったからからこそたどり着いた焼酎なのかもしれません。

蔵の情報

【会社名】 原田酒造株式会社
【住所】 〒891-9214鹿児島県大島郡知名町知名379-2
【設立】 1967年
【主要銘柄】 本格焼酎「昇竜」「満月」など
【Webサイト】 http://www.haradasyuzo.com/index_.html

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