Vol. 04

悪太郎(相良酒造)

それは、市街地のど真ん中で造られる。

「なんておどろおどろしい焼酎なんだ……」。

それが、酒屋で芋焼酎「悪太郎」をはじめて見たときの感想です。「悪太郎」というなんとも一筋縄ではいかなさそうなネーミングと、一瞬「ぎくり」としてしまうラベルの書体。「これはきっと、焼酎の玄人向けの銘柄なんだろう」と、思い込んでいました。

しかし、実際口に含んでみるとその印象は一変。とてもスッキリとしたキレのある飲みくちで、スイスイと喉を滑る。ごつごつとした第一印象とのギャップに驚かされます。

そんな「悪太郎」を造るのは、鹿児島鹿児島市にある相良(さがら)酒造。相良酒造の特徴は、なんといってもそのロケーション。幹線道路のすぐそばにあり、建物のとなりにはマンションが立ち並んでいます。そうした、焼酎づくりでは少し珍しい環境であるがゆえに起こる苦労もあるのだとか……。

今回は、相良酒造での焼酎づくりと「悪太郎」という銘柄について、工場長の北原直樹さんにお話を伺いました。

相良酒造の工場長・北原さん。写真は、タンクに入ったもろみを撹拌する「櫂入れ(かいいれ)」の様子。

「このままではいけない」と始めた、得意分野と真逆の焼酎づくり

まずは、今回お届けする芋焼酎「悪太郎」について教えていただけますか?

北原

はい。「悪太郎」はいわゆる本格芋焼酎なのですが、どちらかというとスッキリした味わいの芋焼酎です。

そもそも相良酒造は昔から、どっしりとした芋臭いタイプの焼酎を造ることが得意で、そういう銘柄ばかりを造ってきました。ただ、ある時期から「芋臭いタイプの焼酎だけじゃいけない」と危機感を持つようになり、新しい試みとしてスッキリした味わいの焼酎を造ったんです。それがこの「悪太郎」です。

単純な疑問なんですが、芋臭い味わいが特徴の蔵なのに、まったく違う方向の焼酎をなぜ造ろうと思ったんですか?

北原

ちょうどその頃、第三次焼酎ブームの真っ最中で、とにかく焼酎が売れに売れていました。私がまだこの蔵に入りたての時期だったのですが、仕込んだ焼酎を次から次に出荷するような状態で「焼酎ってこんなに売れるのか……!」と驚いたほどです。

そんな状況だったので、自然と女性の焼酎の消費量も少しずつ増えていたのですが、僕らの蔵では男性に好まれるタイプの焼酎しかありませんでした。なので、「少しでも多くの女性に飲んでもらえる焼酎は造れないか?」と模索し、「悪太郎」を造りはじめました。

なるほど、多くの方に飲んでほしいからこそのチャレンジだったんですね。あと、「悪太郎」は特殊な麹を使っているとお聞きしました。

北原

はい。それまでの相良酒造の焼酎造りとはまったく違う方向性の焼酎だったので、工夫が必要でした。

うちのすぐそばに、河内源一郎商店という麹屋があります。河内源一郎は「河内菌(※)」という麹菌を発見し、焼酎の品質を格段に向上させた「近大焼酎の父」とも呼ばれる人物なのですが、「悪太郎」は現在の河内源一郎商店の工場長と一緒に麹を開発し、造りました。

(※現在、河内菌本舗で販売する「河内菌白麹」は、全国の本格焼酎製造用麹菌として80%以上の工場で使用されている。)

隣には幹線道路にマンション、オフィスビル……。市街地ど真ん中に位置する焼酎蔵

ところで、蔵にお邪魔してからずっと気になっていたんですが、この蔵って市街地のど真ん中にありますよね? こういう場所に位置していることは、焼酎づくりになにか影響がありそうな気がしますが。

北原

影響ありますね(笑)。いまは年に数ヶ月しかない、本格的な焼酎づくりの時期なのですが(取材時は11月中旬)、この時期は朝6時過ぎくらいから仕込みをはじめています。僕が入社した13年前はまだ早かったと思います。たしか、5時くらいからやってたかな…。

えっ! 朝6時ですか!?

北原

はい(笑)。蔵のすぐそばに普通の住宅があって、夕飯時の19時〜20時に機械の稼働音を鳴らすのはあまりよくないんです。

朝5時〜6時くらいは人がまだ寝ている時間なので、少々の音は問題ないのですが、普通に人が起きていて家にいる夕飯時はできる限り静かにしようということで、朝早くから仕込みをはじめるようになりました。

へぇ! そんなに早い時間帯から動いている蔵はあまり聞いたことがないですね。

北原

そうですね。焼酎蔵って美味しい水のある自然豊かな地域にあることが多いので、騒音を気にすることはほとんどないんじゃないかと思います。中には、蔵から近くの民家まで数百メートルくらいの距離があったりしますよね。

前回の宅配だいやめキッチンでお届けした軸屋酒造さんは、「これぞ田舎!」という田園風景に囲まれていましたからね。

北原

そういった蔵と比べると、相良酒造は目の前に国道10号線という幹線道路が通っていたり、すぐ横にマンションが林立していたり、かなり市街地寄りというなかなか特殊な環境ではあると思います。

あとは、少し前に「火事騒ぎ」の事件もあって(笑)。

左手に見えるのが相良酒造。すぐ近くには、県内でも特に交通量の多い国道10号線が通っており、スーパーやビルも立ち並んでいる。

蔵で火事があったんですか?

北原

いえ、違うんです。焼酎を仕込む時期になると、朝6時過ぎには毎日芋を蒸しているんですけど、その蔵からもくもくと立ち込める煙を見て、隣のマンションに住んでいる住民が「隣の工場が火事だ!」と勘違いして、消防車を呼んだことがあったんです。

勘違いで(笑)。

北原

昔からこの地域に住んでいる人は、うちが焼酎蔵で、仕込みの時期になると「ああ、またこの時期ね」と理解してくれるのですが、引っ越してきてすぐの人はそれが分からないから、火事になったと勘違いする人がいたりするんですよね。

もうそれからは、消防署の方に対して「仕込みの時期に『工場が火事だ』と連絡があったら、一度私に連絡をください」と伝えてあります(笑)。

「ここに、井戸を掘ろう」。ブームで人材不足になるなか生まれた奇策

さきほど「焼酎蔵は水が美味しい地域の近くにあったりする」というお話でしたが、相良酒造の場合は、水はどう調達してるんですか?

北原

うちの場合は、蔵の中に井戸があって、仕込みにはいつもその水を使っています。

へぇ! 蔵の中に!

北原

じつは、この付近って水にまつわる土地名が多いんです。「小川町」「清水町」「鼓川町」とか。あと、ちょっと足を伸ばすと「城山」があったり、高台になっている地域があったりして、この周辺って、かつては水が流れ落ちてくる地域だったみたいなんです。

なるほど、じゃあ水には恵まれてたんですね。井戸があるのも納得です。

北原

10年ほど前のことなんですが、先代の代表が、なんの根拠もなしに「ここらへんは水にまつわる地名が多いから、井戸を掘れば絶対美味しい水が出てくる。だから、井戸を掘ろう!」と急に言い出したんです。

根拠もなしに(笑)。胆力がすごい。結果はどうだったんですか?

北原

それが……出てきました。美味しい水が(笑)。僕らもすごく驚いたのですが。

本当ですか! 蔵のなかで水が得られるようになったというのは、蔵としてすごく大きな出来事だったんじゃないですか?

北原

そうですね。それまでは、焼酎を仕込むための水と、割り水(原酒から25度にするために用いる水)は毎日汲みに行ってましたからね。

その当時は焼酎ブーム真っ最中だったのですが、たった4人で焼酎造りから瓶詰めまで全部おこなってたんです。だから、水汲みのために1人のメンバーが1〜2時間以上欠けることすら、とても惜しかった。そう考えると、言ってみれば「そうせざるを得なかった」という部分もあったんでしょうね。

先代は2年前に亡くなったので、単なる閃きなのか、なにか根拠があってのことなのか分かりませんが、今となっては相良酒造の焼酎を造るのに欠かせない存在となっていて、すごく助かっていますね。

蔵の情報

【会社名】 相良酒造酒造株式会社
【住所】 〒892-0819 鹿児島県鹿児島市柳町5−6
【創業】 1953年
【主要銘柄】 本格焼酎「相良」「相良兵六」「悪太郎」など
【Webサイト】 http://sagarasyuzou.com/

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