Vol. 10

お茶娘。(大海酒造)

想像以上に、お茶の味。

「鹿屋の大海酒造にすごい杜氏がいる」――。

鹿児島県各地の焼酎蔵を巡っているだいやめキッチン編集部の耳にそんな情報が入ってきました。
杜氏の名は、大牟禮良行(おおむれよしゆき)さん。35年以上、大海酒造で焼酎を造り続けてきた、大ベテランです。なんでも、毎年行われる鹿児島県の本格芋焼酎の鑑評会では、これまで4度も最優等賞を受賞されており、県内の焼酎蔵のなかでも有名な存在なんだそう。

6月号としてお届けする「お茶娘。」は、そんな大牟禮さんが企画から3年以上の歳月をかけて製品化を目指してきた焼酎で、2017年に大海酒造から発売されました。

「そんなすごい杜氏の焼酎づくりって、どんな感じなんだろう?」、大海酒造を訪ね、大牟禮さんにお話を聞きました。

ベテラン杜氏が、あえて全国の飲食店を巡る理由

1980年に大海酒造に入社し、1998年に杜氏になってからは、20年近く製造責任者として蔵の焼酎造りを引っ張ってきた大牟禮さん。県内の各蔵の若手杜氏からは「あの人には勝てない」と、一目置かれる存在です。

そんな社内外の業界人が認めるベテランですが、近年は全国各地の飲食店をめぐって、自ら大海酒造の焼酎を振る舞うことが多いんだそう。PR活動、営業周りは若手の営業担当に任せればいいのでは?と思ってしまいますが、それには理由があるんだとか。

「各地の飲食店で『大海酒造の会』を開いて、いろんなお客さんに新作の焼酎などを飲んでもらうんです。すると、焼酎に対する評価を直接聞けるだけでなく、だいたいどの地域でどれくらい売れるか、ということもなんとなく分かってくる。お客さんと触れ合って、直接反応を得ることは造り手にとってすごく重要なんです」(大牟禮さん)

大海酒造の焼酎を飲んでもらうために、ときには鹿児島から北海道まで駆けつけることもあるという大牟禮さん。なかには、厳しい意見をズバッと指摘されることもあるのだといいます。

「これまでの経験だと、特に女性のお客さんからストレートなご指摘をいただくことが多いです。「なにこのラベル? ダサいね」とか「思ってたより、味が全然しないね」とか。そうした意見をもとに、味を調整したり、ラベルデザインを変えたりと、製品にフィードバックしています」(大牟禮さん)

実は、今回の「お茶娘。」のラベルも、直接もらったお客さんの意見を取り入れ、発売当初のデザインとは少し変わっています。自分のセンスを押し通すのではなく、あくまでお客さんが求めるものを提供するという大牟禮さんの姿勢が垣間見えます。

造り手の「こだわり」よりも、まずは「きっかけ」を。

そんな大牟禮さんの「消費者視点」の考え方は、大海酒造が更新している公式ブログにもあらわれています。そのブログでは、大海酒造の焼酎を炭酸のグレープジュースで割ったり、ストレートティで割るという一風変わった斬新な飲み方を提案しているのです。

一見、「杜氏としては、シンプルにお湯割りや水割りで飲んで欲しいものなんじゃないの?」と疑問に思ってしまいますが……。

「たしかに、焼酎の飲み方として『邪道』かと言われれば、正直そのとおりだと思います。造り手の心情としては、そう素直に認められるものではありません。でも、今の市場でどうやって若い人たちに焼酎を飲んでもらうか?と考えたときに、そういう飲み方を「邪道」と簡単に切り捨てていいのか、と疑う必要があると思ったんです」(大牟禮さん)

「大海酒造の会」で若い世代の人と一緒にお酒を飲んだときに、焼酎を炭酸やジュースなどで割って飲んでいるのをよく見て、「今の若い世代は、昔ながらの飲み方にほとんどこだわっていない」と気づいたのだといいます。それ以来、消費者に対する考え方が一変しました。

「炭酸やジュースで割っているのを見て、僕らが『そんな飲み方はダメだ』という権利はないんです。若い世代の人には『どうぞ、自分の好きな飲み方で飲んでください』と提案したほうがいいんじゃないかと思っています。造り手のこだわりなんて、はっきり言って飲む人にとってみればどうでもいい。彼らは、美味しければなんでもいいと思ってますから。今は、そういう時代なんだと思います」(大牟禮さん)

一見、「杜氏としては、シンプルにお湯割りや水割りで飲んで欲しいものなんじゃないの?」と疑問に思ってしまいますが……。

「たしかに、焼酎の飲み方として『邪道』かと言われれば、正直そのとおりだと思います。造り手の心情としては、そう素直に認められるものではありません。でも、今の市場でどうやって若い人たちに焼酎を飲んでもらうか?と考えたときに、そういう飲み方を「邪道」と簡単に切り捨てていいのか、と疑う必要があると思ったんです」(大牟禮さん)

「大海酒造の会」で若い世代の人と一緒にお酒を飲んだときに、焼酎を炭酸やジュースなどで割って飲んでいるのをよく見て、「今の若い世代は、昔ながらの飲み方にほとんどこだわっていない」と気づいたのだといいます。それ以来、消費者に対する考え方が一変しました。

「炭酸やジュースで割っているのを見て、僕らが『そんな飲み方はダメだ』という権利はないんです。若い世代の人には『どうぞ、自分の好きな飲み方で飲んでください』と提案したほうがいいんじゃないかと思っています。造り手のこだわりなんて、はっきり言って飲む人にとってみればどうでもいい。彼らは、美味しければなんでもいいと思ってますから。今は、そういう時代なんだと思います」(大牟禮さん)

以前、大牟禮さんが東京出張の際に、顔なじみの酒屋店主と話していたときのこと。芋焼酎「黒霧島」で知られる宮崎県の霧島酒造を引き合いに、「焼酎を飲むきっかけづくり」に通ずる重要なヒントを得たという大牟禮さん。

「霧島酒造はぶっちぎりの業界最大手で、僕たち鹿児島の焼酎蔵にしてみれば『目の上のたんこぶ』のような存在です。鹿児島の焼酎が宮崎の焼酎に出荷量で負けた、という報道が出てからも久しいですよね。でもそんなとき、東京の酒屋の店主が『大牟禮さんたちは、霧島酒造を目の敵にするのはやめたほうがいい。今みたいに幅広い層に売ってもらうことで、それをきっかけに芋焼酎に少しでも興味を持ってくれる人が増えると、全体としてチャンスは広がるじゃないですか』と話してくれたんです」(大牟禮さん)

どんな飲み方、どんな銘柄銘柄であれ、まずは好きなように飲んでもらい、焼酎を飲むきっかけにしてもらう。ブログでの新しい飲み方の発信は、「造り手のこだわりは二の次にし、いかにきっかけを与えて焼酎を受け入れてもらうか」ということを考え抜いた結果、取り入れたことだったのです。

「この焼酎は、今だからこそ造っていいと思った」

そんな大牟禮さんが造る「お茶娘。」は、鹿児島県の特産品であるお茶の葉と芋焼酎という、焼酎業界にはかつてない組み合わせによって生まれたもの。実は、こうしたコラボは大牟禮さんにとっては初めてではありません。初の試みは2006年発売のばら焼酎、「薔薇の贈りもの」に遡ります。

「1999年に杜氏を引き継いで、しばらく経ったあるとき、地元の仲間たちと一緒に飲んでいるときに冗談っぽく『せっかく地元(鹿屋)で働いているんだから、なにか地元に貢献するものを造ってくれよ』と言われたんです」(大牟禮さん)

なぜかその言葉がしばらくずっと忘れられなかったという大牟禮さん。そんなある日、たまたま「ばらを活かしたまちづくり推進室」が鹿屋市役所で立ち上がったことを知ります。それを見て「コレだ!」と思い立った大牟禮さんは、すぐに『かのやばら園』でばらと焼酎のコラボ企画を打診し、製品化へ向け動き出しました。

企画から足掛け7年目である2006年に、大海酒造から日本初のばら焼酎「薔薇の贈りもの」を発売。ばらと焼酎という日本初の組み合わせだったということもあり、メディアにも大きく取り上げられました。そして、ばら焼酎の製造も確立してきた頃、次なるコラボとして目をつけたのが、「お茶」でした。大海酒造がある大隅半島はお茶の産地。これを活かす手はないと大牟禮さんは考えました。

「今、いろんな焼酎の飲み方がありますが、そのなかに緑茶の粉を焼酎に入れる飲み方もありますよね。特に関東地方ではそのような飲み方をすることがあります。僕も飲んだことがありますが、すごく美味しい。『じゃあ、粉末を入れるのではなく、直接お茶を仕込んでみるのはどうか?』ということで、大隅産のお茶で仕込んだ芋焼酎を造ってみることにしたんです」(大牟禮さん)

鹿児島県で芋焼酎といえば、飲み方の定番はやはり「お湯割り」。関東地方で親しまれている「緑茶割り」はさほど浸透しておらず、ほとんど馴染みがありません。けれど、2017年のこのタイミングでお茶と芋焼酎のコラボを実現したのには、大牟禮さんのある思いがありました。

「15年ほど前の焼酎ブームのときにこの焼酎を出しても、おそらく受け入れられなかったと思います。この業界に、焼酎とお茶を合わせるなんて発想がそもそもなかったから。この『お茶娘。』は、今だからこそ通用する焼酎だと思います。『今だったら、造ってもいいのかな』と思えたので、世に出した焼酎なんです」(大牟禮さん)

お茶特有のふくよかな香りとクリーミーな、芋焼酎にない画期的な味わいが特徴な「お茶娘。」。時代の流れを読み、消費者の趣向に徹底的に向き合ってきた大牟禮さんだからこそ生み出せた焼酎なのかもしれません。

おいしい「晩酌」を、毎月ご自宅に。

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