Vol. 09

メローコヅル(小正醸造)

夢の起源は、 「メロウ」な味でした。

大きく「KANOSUKE」と書かれた、真新しく大きな建物。ここは2018年4月、鹿児島県日置市に新たにオープンしたウイスキー専門の製造所「嘉之助蒸留所」です。鹿児島県内では、大手焼酎メーカーである本坊酒造の「マルス津貫蒸留所」に続いて2番目のウィスキーの製造所になります。

オープンして間もないこの蒸留所で、あたらしいジャパニーズ・ウィスキーを造っているのは、今回お届けする米麦焼酎「メローコヅル磨(みがき)」も手がけている、小正醸造(こまさじょうぞう)です。「小鶴」「蔵の師魂」などの焼酎を造る、老舗の焼酎蔵でもあります。

「ウィスキー」と「焼酎」は一見すると全く別のお酒のように思えます。正直にいうと、取材前は「なぜ焼酎蔵がウィスキーの蒸留所?」という疑問がありました。しかし、お話を聞くと、実は「嘉之助蒸留所」と「メローコヅル磨」の間には深い関わりがあることが見えてきました。今回はそんなメローコヅル磨について小正醸造研究開発課の枇榔誠(びろうまこと)さんにお話を伺いました。

日本初の長期樽熟成焼酎「メローコヅル磨」

メローコヅル磨は、日本ではじめてオーク樽で長期熟成された焼酎です。メローコヅル磨のように、樫樽に寝かせ長期熟成された焼酎には、「色」と「風味」に大きな変化があらわれます。

その色は、樽の持つ木の色がじんわりと着色し、鮮やかな琥珀色になります。また、ナッツやバニラを思わせる独特の風味が味わえるのも、樫樽貯蔵で造られる焼酎ならではの特徴です。

メローコヅル磨のルーツは1950年代に遡ります。当時、戦争から復帰してきたばかりの2代目・小正嘉之助が、世界に通用する焼酎を目指し、米焼酎を企画、開発しました。

世界中の蒸留酒を研究した嘉之助は、ウイスキーやブランデーが樫樽の中で長い熟成期間を経て完成することに着目。その製法を米焼酎に取り入れ、造られたのが「メローコヅル」です。今でこそさまざまな焼酎蔵で樫樽熟成された焼酎が発売されていますが、メローコヅルはそのパイオニア的存在として業界をリードしてきました。

「当時は戦後で食糧不足だったこともあり、『米を使って焼酎を造るなんてどうかしてる』『嘉之助のやっていることは道楽だ』と、周囲の人からは多くの批判を浴びたそうです。実際、当時のセオリーをからしても、明らかに常識はずれな焼酎でした。でも、その声に負けずに造り続けたからこそ、いまのメローコヅル磨があるんですよね」(枇榔さん)

誰にも理解されないようなアイデアを形づくるチャレンジ精神は、今も小正醸造に脈々と受け継がれています。近年では、小正醸造が業界ではじめて「ノンアルコールの焼酎」を造ったことも世間を賑わす話題となりました。そして、このたび開設されたウィスキー製造所、嘉之助蒸留所もそうした試みのひとつです。

2代目・小正嘉之助が夢見た、人々が集う「嘉之助蒸留所」

小正醸造が新たに開設した嘉之助蒸留所は、ウイスキー専門の製造所です。現在すでにオリジナルのジャパニーズ・ウイスキー「KANOSUKE」の製造ははじまっており、ここで造られたウイスキーは約3年間の熟成を経て、市場へ出ることになります。

「嘉之助蒸留所」という名前は、メローコヅル磨を造った2代目・小正嘉之助から取ったもの。これは2代目に対するリスペクトのあらわれですが、その背景には嘉之助が、当時から思い描いていたとあるビジョンがありました。

「この嘉之助蒸留所がある土地は、元々嘉之助が持っていた土地なんです。彼には、ここに大きな蒸留所を作りたいというビジョンがありました。その構想は実際にイラストとしても残されていて、テニスコートや広場など、人々が集う場所にしたいという思いがあったんですね」

さらに、この蒸留所において特筆すべきなのが、ウイスキーのテイスティング専用のバー「THE MELLOW BAR」。目の前では、日本三大砂丘のひとつでもある「吹上浜(ふきあげはま)」が一望できる、なんとも贅沢な空間です。

蒸留所全体が、見学できる造りになっており、全ての工程を間近で見られるのも嘉之助蒸留所の特徴。「ジャパニーズウイスキーを鹿児島の地で少しでも広めたい」という小正醸造の思いがここにあらわれています。

ウイスキーづくりのノウハウはゼロ。あるのは、焼酎づくりの経験のみ。

実はいまここでウイスキーを造っているのは、もともと小正醸造で焼酎を造っていたスタッフの方々。焼酎も造りながら、ウイスキーの製造も手がけています。

この蒸留所の開設に合わせて専門スタッフを招き入れるのではなく、あくまで自分たちが持つリソースを活用し、ウイスキーを造っていくという考えです。「焼酎」と「ウイスキー」は全く違うお酒のようにも見えますが、実は共通点もあるのだとか。

「お酒のカテゴリーで見れば、ウイスキーは焼酎と同じ蒸留酒で、求められる技術には実はそこまで大差はないんです。また小正醸造には、これまで『メローコヅル』で培ってきた樫樽貯蔵で焼酎を造るノウハウが蓄積されています。もちろん、原料や麹の違いによる難しさはありますが、これらのスキル/ノウハウを駆使すれば、美味しいウイスキーは造れると信じています」

とはいえ、ゼロからのウイスキーづくりということもあり、枇榔さんをはじめとする製造スタッフ数名でスコッチウイスキーの本場スコットランドの蒸留所で研修をおこなったり、鹿児島県で先行してウイスキーを造っている本坊酒造の方にアドバイスをもらうなど、ジャンル違いの酒造りに対して一歩ずつ着実に歩みを進めてきました。

そうして、焼酎メーカーが別のジャンルのお酒を造ることで、さまざまなメリットも見えてきたといいます。

「焼酎だけでなく様々なタイプのお酒を造る機会があるのは、蔵としてもすごくいいことだと思います。一方で得たノウハウをもう片方に活かしてみたり、アイデアの幅も広がるので、いい相互作用を生んでいけるでしょうね。あとは、そっちの方がいち蔵人としても単純にワクワクしますよね」

ゆくゆくは「嘉之助蒸留所のウイスキーをきっかけにし、小正醸造の焼酎を知ってもらえたら」、と枇榔さん。小正嘉之助の夢ともいえる蒸留所で造られるウイスキーは、彼自身が造りあげた「メローコヅル」がその礎となっています。誕生から60年が経ったいま、「夢」の起源を味わってみてはいかがでしょうか。

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