Vol. 08

指宿エクセレント利八(吉永酒造)

湯けむりの街、指宿を召し上がれ。

「小さい頃は、『こんな蔵継ぐもんか。潰してやる』と思ってたんですよ」。冗談交じりにそう話してくれたのは、鹿児島県指宿市の小さな街にある吉永酒造の五代目・吉永章一さん。指宿市(いぶすき)は鹿児島県の南端に位置する観光の街。「東洋のハワイ」とも呼ばれ、名物である「砂蒸し温泉」を目指して、今でも多くの観光客が訪れる。そんな指宿で、吉永さんは本格芋焼酎「利八(りはち)」を造っている。

吉永酒造に到着してまず驚いたのは、蔵の小ささだ。外観は、そこが焼酎蔵であることはパッとわからないほど小ぢんまりとしており、一見、普通の民家のように見える。現在蔵で働くメンバーは、たったの4人。113もの焼酎蔵がある鹿児島県内でも、ほとんど最少といってもいい規模の蔵だ。機械の導入も最小限で、大半の工程が手作業によって造っている。

吉永酒造の主要銘柄は「利八」という名前なので、てっきり、細く長い髭をたくわえた”仙人”風の男性がじっくりと仕込んでいるものだと勝手に思いこんでいた。しかし、編集部の取材に快く応じてくれた代表取締役であり5代目杜氏の吉永章一さんは、そんな”仙人”の姿とはほど遠い、若く勢いのある造り手だった。

章一さんが蔵を任されるようになったのは、2010年のこと。当時は蔵を離れていたが、先代の父の体調が悪化し、急遽即戦力として蔵に戻ることになった。大阪のIT企業に勤めはじめて3年目を迎えようとしていた頃で、「これからバリバリ働くぞ」という時期の出来事だった。当時を振り返り、「小さい頃から蔵を切り盛りする両親の苦労をずっと見てきたので、昔は蔵を継ぎたいとは思っていませんでしたが、いざそういう局面になると『やるしかない』という気持ちになりましたね」と章一さんは語る。

蔵に戻ってからは、「とにかく思いついた焼酎を次から次に造り散らかした」という章一さん。吉永酒造で造られる焼酎のブランドは「利八」のみだが、「陶眠利八」「蒸留したてむろか 利八」「夏の利八」……など、そのバリエーション種類は多岐にわたる。そうした、新商品をどんどん世に輩出していった。また、製品の企画・開発だけでなく、公式Webサイトの制作や、仕込み情報のデジタルデータ化、新たな販路拡大など、かつての経験を活かし大小様々な改革もおこなってきた。

史上初、同地域の全6蔵によるコラボによって生まれた「イブスキエクセレント」

「イブスキエクセレント利八」が発売されたのは、章一さんが蔵に戻り、杜氏を引き継いでから7年目となる2017年のこと。きっかけは、同地区の前税務署長と、指宿にある全蔵元の人々が集まる勉強会でのこと。前税務署長からの「せっかく素晴らしい蔵が6つあるんだから、みんなでなにか造ってみては」というの一言で、6蔵共同のプロジェクトが発足した。指宿にある蔵元どうしでコラボし、なにかを造るというのは、指宿でははじめてのこと。企画は、数ヶ月間に渡る打ち合わせを経て「新種の麹菌『エクセレント菌(河内菌E型)』を使い、各蔵でオリジナルの新焼酎を造る」と決まった。

この企画で、「せっかくだから、他の蔵がやらないようなことをしてみたかった」という章一さんが考え出したのが、「エクセレント菌」と南薩摩産の芋「ジョイホワイト」との掛け合わせ。県内の焼酎蔵でもかつてない唯一無二の組み合わせで、独特の甘みと華やかな香り、スッキリとした飲み口が特徴的な仕上がりになるという。「新種の麹を使って、見た目も味も蔵一番のユニークな焼酎ができました。”芋っぽさ”がすこし苦手な人でも飲みやすい味になっていると思います」と章一さん。

そして、この「イブスキエクセレント 利八」は味もさることながら、見た目のインパクトもすごい。描いたのは、同じ指宿市在住のイラストレーター・ocobo(オコボ)さん。「ocoboさんもすごくおもしろい方ですよ。この近くの『鰻池』という池のある村に住んでるんです。ぜひ鰻池にも行ってみてください」と章一さんにおすすめされ、編集部はそのままocoboさんに会いに行くことにした。

それでは、後半では「イブスキエクセレント利八」のラベルを描いたocoboさんへのインタビューをお届けしよう。

 


……というわけで、吉永酒造からそのままの足で鰻池(うなぎいけ)を目指した編集部。スマホの地図を頼りに、車はどんどん山の中へ進んでいく。「本当にこの道で合ってるのかな……?」と少し不安になるような景色のなか10分ほど走っていくと、ようやく道が開けてきた。

たどり着いたのは、駅も、コンビニも、スーパーもない小さな村。あるのは、古い民家と、あちこちから噴出する蒸気、そして、すぐそばには鰻池。

フリーのイラストレーター・ocobo(オコボ)さんは、この鰻池の畔に空き家を利用したアトリエを構え、個人でイラスト制作を行っている。「こんな場所でイラスト……? なぜ……?」と湧き上がる疑問を抱えつつ、「指宿エクセレント利八」のラベルイラストを描いたocoboさんにお話をうかがった。

―ocoboさん、こんにちは。早速なんですが、このアトリエ、めちゃくちゃ雰囲気がいいですね……。ほのかに温泉の香りも漂ってきて落ち着きます。

ocobo:そうですよね。僕は元々指宿市の出身なんですが、「指宿周辺でイラストの制作ができる場所がないかな」とこの周辺地域を歩いて探しているときに、この空き家を見つけたんです。この村は、これより先へは進めない終着地に位置しているということもあって、近年はどんどん過疎化が進んできています。この家の周りも、見渡すかぎりほとんど空き家だらけです。
そこで家主に連絡をとって、この空き家をアトリエとして使わせてもらうことを直談判すると、すぐにOKが出ました。それ以来4年以上、仕事場としてここを使わせてもらってます。田舎というだけあって家賃もめちゃくちゃ安いし、日中もほとんど外から音が聞こえない静かな場所なので、集中してイラストの制作がしやすいんですよね。

―なるほど、ここはアトリエをつくるにはちょうど良い地域なんですね。普段は、ずっとこのアトリエで仕事してるんですか?

ocobo:はい、だいたい朝から深夜までここでイラスト描いて仕事してますね。それ以外の時間は、少しはなれた自宅に帰って寝るだけですね。今年は、年が明けてから毎日ここに来て仕事してます。基本的にずっと一人なので、1日誰ともしゃべらない日もザラにあります。こんな辺鄙なところなので、基本的に住民以外は人がぜんぜん来ないんですよね。なので、今日みたいに取材でお話しするときは、もう家に帰り着く頃には喉枯れてますね。「あー、久しぶりに声出したなー」って(笑)。

パワースポットに伝統行事、天然の蒸気釜「スメ」……、文化的ポテンシャルの高い鰻地区

ocobo:そしてこの地域、かなり強めのパワースポットでもあるみたいなんです。霊感のある人いわく、村に入るとすぐに雰囲気ががらっと変わるようなんですよね。そこで「もうダメ」となっちゃう人も少なくなくて。実際これまで2人、そこから立ち入れずに途中で帰っていったこともあります。良くも悪くも、そういう力が強い土地なんでしょうね。
その他には、4年に1回くらいの頻度でレアな行事もあって。鰻池による水害もあった地域ということで、供養のために、人身御供として大量の藁人形を地域一帯に掲げる儀式とかも行われてますね。前回、たまたまその行事に参加できたのですが、普通は見られない、かなり異様な雰囲気でしたね。

―鹿児島出身の僕ですら、いずれもはじめて知りました。まさに未開の地……!

ocobo:あとは、この村には「スメ」と呼ばれる、温泉の蒸気を利用した自然のかまどがあります。この地域一帯、至るところから温泉の蒸気が吹き出してくるので、その熱源を利用して調理をする文化が昔からあるんです。この「スメ」は、たいてい1家に1台あり、共同で使えるものもあります。焼き魚以外だと、ほとんどの料理がこの「スメ」でつくれます。

―へぇー! 鹿児島は温泉大国で、各地に温泉が湧いてますが、その蒸気を調理に使うというのははじめて聞きました。電気もガスもいらない、オーガニックな熱源なんですね。

ocobo:「スメ」の蒸気が硫黄分を含んでいることもあって、金属が錆びやすいというデメリットもあったりします。ただ、スメのおかげでこの村はずっと火事がない村だったり、トータルでみると恩恵の方が多いですし、この土地はかなりポテンシャルが高いと思いますね。

ひっそりとはじめたイラストの制作。保育園のママの口コミで火がつき、独立へ

―そもそも、ocoboさんはどういう経緯でイラストを描くようになったんですか?

ocobo:元々は身体を使う仕事が好きで大工として働いてたんですけど、20歳くらいの頃から腰を悪くしてしまったんですね。なので、やむを得ず塗装屋に転職したのですが、それでも厳しかったので、同じ指宿市にある焼酎蔵で働くようになりました。その時期くらいから、空いた時間を使って趣味としてずっとイラストを描いていたんです。イラストは小さい頃からずっと描いていたので、その延長で。

で、しばらく働きながら趣味としてイラストを描き続けていたんですが、容態がどんどん悪化していって。ひどくなっていく一方だったので、一度診察してみると、腰に腫瘍ができていることがわかったんです。結局、腫瘍自体は良性だったので大事には至らなかったのですが、1年間ほとんど寝たきりで過ごしたり、車椅子生活を検討したりしていて、その後ふつうに肉体労働をしていくのはかなり厳しかったんですね。そういった経緯で、「イラストでメシが食えたら…」と思うようになり、本格的にイラストを描くようになりましたね。

―体調に合わせて、できることを模索していった結果ということなんですね。

ocobo:「いけるかも?」と思ったきっかけは、保育園に通っていた息子の服を自作したときですね。子供服って、たいてい衣料品店で買うのが普通だと思うんですが、あまり自分好みの服がなかったんですよね。あっても子供服なので割高ですし。なので、「じゃあ、かわいいTシャツを自分で作ってしまおう」、と。

そこで、ペイントについて勉強して、オリジナルのイラストを描いた服を作って息子に着せて保育園に連れて行くと、他の親御さんが「そのTシャツほしい!」と言ってくれて。そのときにはじめて、自分のイラストに手応えを感じましたね。それから、保育園の看板を描いたり、保育園のバスにイラストを描くようになって。イラストはSNSでも発信していて、その効果もあって、どんどん雪だるま式にお客さんは増えていきました。

指宿要素をこれでもかと詰め込んだ「指宿エクセレント利八」のラベル

―今回の「指宿エクセレント利八」のイラストは、ひと目見ると忘れられないようなインパクトがありますよね。このイラストを描いたきっかけは何だったんですか?

ocobo:以前、吉永酒造の代表・吉永章一さんの奥さんの依頼で一度イラストを描いたことがあったんです。今回は2度目だったのですが、「新しい焼酎を造るからラベルのイラストを描いてもらえないか」ということで、お声を掛けていただきました。イラストの内容は、とにかく「指宿づくし」ですね。砂蒸し温泉に知林ヶ島、フラダンス、西郷どん……と、指宿にまつわるいろんな要素を詰め込んでます。最初は、ツン(西郷隆盛が飼っていたとされる犬)と西郷どんが、砂むし温泉に入っているだけのようすを俯瞰で描くというシュールなイラストにしようと思っていたのですが、どんどんやり取りを重ねていくうちに、指宿要素が少しずつ増えてきて……(笑)。

―個人的には、頬を赤らめながら砂蒸し温泉に入る西郷どんが好きですね。シュールな感じの無表情なので、しばらく見てると不安な気持ちになってきます(笑)。あと、フラダンサーの衣装に指宿の「知林ヶ島」が描かれているのを発見したときはハッとしました。

ocobo:そうですね。このイラストは、けっこうおふざけ的な要素も盛り込んでます。そもそも、吉永さんがシュールな感じがお好きで、そういう方向にどんどん寄せていきました。どんどん指宿の要素が多くなって、シュールさも増してきて、最終的には「もう『利八』の文字はぜんぜん目立たなくていいよ!」みたいな感じになって(笑)。

―へぇ! 吉永さんのこだわりがギュッと詰められてるんですね。すごく真面目な方だったので、ちょっと意外です。

ocobo:あと、実は僕が描くイラストはすべて手描きなんですが、色を調整するときには全て上から塗り足していくしかないので、めちゃくちゃ時間がかかりましたね。夕焼けの色味とか、5回くらい塗り足したんじゃないかな(笑)。ただその分、納得の仕上がりになってます。吉永さんの意図を汲み取りながら時間をかけて理想に近づけていった作品ですので、ぜひこれを飲みながら、指宿という地にすこしでも思いを馳せてもらえるとうれしいですね。

おいしい「晩酌」を、毎月ご自宅に。

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